社会全体で支える仕組み、日本の「介護保険制度」

地域社会

日本の高齢化は急速に進み、2024年時点で、65歳以上の人口は全人口の約30%を占め、今後も増加が予測されています。介護が必要な高齢者も増え続ける中、安心して利用できる「介護保険制度」の充実は必要不可欠なものとなります。あなたは40歳から給与控除されている「介護保険料」について、どのように使われているか知っていますか?この記事では日本の「介護保険制度」に焦点をあて、制度を定めた介護保険法制定の歴史などを紐解きながら、その仕組みについて分かりやすくお伝えします。

社会的背景からみた「介護保険法」制定までの歴史

母を介護するむずめ

戦後の経済成長期以降、急速に進む高齢化に対応するため、高齢者が尊厳を持って安心して暮らせるようにすることを目的とした福祉サービスの提供が求められ、1963年に「老人福祉法」が制定されました。この法律は、高齢者に対する福祉サービスの基本的な枠組みを定めたものであり、特別養護老人ホームや老人福祉センターなどの施設の設置、在宅サービスの提供などが規定されました。

その後も進む高齢化社会の中で、高齢者の医療費の増大が大きな社会問題となり、医療と介護の両方に対する負担が増えました。このような背景から、1982年には、高齢者が健康で自立した生活ができることを目的とした「老人保健法」(現在の「高齢者の医療の確保に関する法律」)が施行され、高齢者の定期的な健康診断の制度化や健康教育、予防接種などが推進されました。この法律により、高齢者が健康を維持し、自立した生活を送るための基盤が整えられました。

1990年代後半になると、さらに進む高齢化に伴い、従来の「老人福祉法」と「老人保健法」だけでは高齢者の多様なニーズに対応することが難しくなりました。そこで、2000年に「介護保険法」が施行され、高齢者の多様なニーズに対応できる国民が平等に利用できるサービスを制度としてスタートさせました。

介護保険法施行前の家庭内介護の問題点

ホームケア

介護保険法施行前の日本の高齢者介護は、主に家族や社会福祉サービスに依存していましたが、急速な高齢化と核家族化により、従来の介護の枠組みでは対応が難しくなっていきました。

1950年代から1970年代にかけての日本では、三世代同居が一般的で、家庭内での介護が主流でした。1980年代以降、経済成長や都市化の影響で核家族化や女性の社会進出が進み、介護を担う主な存在だった女性(主に妻や娘など)の役割も変化しました。そのため、家庭内での介護はその役割を担う家族の負担が大きく、介護離職や介護うつなどの問題が顕在化していました。

さらに医療技術の進歩により平均寿命が延びる一方で、寝たきりや認知症などで長期的な介護が必要となる高齢者も増加しました。当時の社会福祉サービスは地方自治体や社会福祉法人が提供するホームヘルプサービスなどを利用していましたが、利用できるサービスや範囲に制限があり、費用面での負担やそのための所得調査など、利用する側も提供する側も多くの問題や課題を抱えていました。増え続ける高齢者対応に飽和状態であったといわれています。このような背景から、介護が必要な高齢者を支えるための社会的な仕組み作りが急務となりました。

「介護保険法」のはじまり

「介護保険法」は、こうした様々な社会的背景を受けて施行されました。この法律は、「高齢者介護の負担を社会全体で分かち合い、すべての国民が公平に介護サービスを利用できるようにすること」を目的としています。介護が必要な高齢者は、市町村による要介護認定を受け、その結果に基づいて必要な介護サービスを受けることが可能になりました。

介護保険制度の詳細とその効果

介護が必要な高齢者は、「介護保険法」により、自らの意思で介護サービスを選択でき、可能な限り自立した生活を送れるように社会全体で支援する仕組みが整いました。この章では、介護保険法施行以来、サービスや質の向上、制度の持続可能性の確保が図られ続けている日本の「介護保険制度」の詳細と、その効果についてお伝えします。

「介護保険制度」の財源は

お金 財源 保険料

「介護保険制度」はすべての国民が公平に介護サービスを受けられることを目的とし、その財源は「公費」と40歳以上になると社会保険料として徴収される「介護保険料」によって賄われています。介護保険料納付者は介護保険の被保険者として、要介護認定によりそのサービスを利用することが可能です。(65歳以上は第1号被保険者、40歳~64歳は第2号被保険者で特定疾病により介護が必要な場合のみ、詳細は以下のコラムをご確認ください。)

「社会保険」についてわかりやすく解説します~前編~

介護申請の手続きの流れ

介護保険の被保険者は必要に応じて「介護申請」をすることができます。ここでは、「介護申請」の流れと利用できる施設やサービスまでを簡単に説明します。

  1. 要介護認定の申請:介護サービスを利用したい高齢者やその家族が、市区町村の窓口に要介護認定の申請を行います。
  2. 訪問調査:市区町村の職員や委託された調査員が申請者の自宅を訪問し、その状態を評価します。その項目は基本的な日常生活動作や認知機能など、約70項目にわたります。
  3. 主治医の意見書:申請者の主治医に意見書を作成してもらい、健康状態や疾患の影響について確認します。
  • 要介護認定とは:介護保険制度で介護サービスを受けることができるかどうかを判定すること。判定された介護度により利用できる介護サービスや給付額が変わります。

認定調査と審査

  1. 審査会による判定:市区町村の介護認定審査会が、訪問調査の結果と主治医の意見書をもとに総合的に判断します。
  2. 介護の判定:介護度は要支援1・2から要介護1~5までの7段階に分類されます。要支援は軽度の介護が必要な状態、要介護は日常生活に支障が出る程度の介護が必要な状態です。

なぜ要介護認定が必要なのか

要介護認定は、適切な介護サービスを提供するための重要な基準です。これにより、介護サービスの利用者がそのニーズに応じた適切な支援を受けられるようになり、サービスの質と効率が向上します。また、要介護認定は介護保険制度の基盤を形成し、公平で一貫したサービス提供を確保する役割を果たしています。介護度の認定基準の詳細は以下です。

  • 非該当:介護サービスの必要がないと判定された場合。
  • 要支援1~2:介護予防(生活機能を維持・こうじょうさせ、要介護状態になることを予防すること)。軽度の支援が必要で、日常生活の一部に手助けが必要な状態。
  • 要介護1~3:介護給付(適切な介護サービスを受けながら)身の回りのことに部分的~全面的な介助が必要な状態。
  • 要介護4~5:介護給付(適切な介護サービスを受けながら)日常生活全般にわたり全面的~全介助が必要な状態。

サービスの多様化

ケアプラン作成

介護度が認定され、サービスを利用する場合は、ケアプラン(介護サービス計画)の作成が必要です。「要支援1,2」は地域包括支援センターに、「要介護1」以上の場合はケアマネジャーが在籍するケアプラン作成事業者(居宅介護支援事業者)へ依頼します。

  • ケアマネジャーとは:介護保険法に基づいて介護サービス利用者に対するケアプランを作成し、適切なサービスの利用を支援する専門職です。サービスが円滑に提供されるよう調整したり、利用者の状況を定期的に確認したりするなど、一元的に調整を行うため、家族の負担も軽減されます。
  • ケアプランとは:利用者の介護ニーズに応じて、どのような介護サービスをどの程度利用するかを具体的に示した計画書です。「サービス内容とその頻度」「利用者の目標設定」「サービス提供者の選定」「利用者と家族の意向」等が含まれます。

ケアプラン作成のステップ

計画を立てる
  1. アセスメント(現状評価):ケアマネジャーが利用者の生活環境や身体状況、家族の状況などを詳しく把握するために、訪問や面談を行います。この過程で、利用者や家族の希望や意向も確認します。
  2. ニーズの把握:アセスメントの結果を基に、利用者が必要としている介護サービスや支援内容を具体的に特定します。例えば、日常生活のどの部分に支援が必要なのか、リハビリの目標は何かなどを明確にします。
  3. サービスの選定:必要なサービスが明確になったら、利用可能なサービスの中から適切なものを選びます。訪問介護、デイサービス、訪問看護など、利用者のニーズに合ったサービスを組み合わせます。
  4. 介護サービスの利用:ケアプランに基づいて、具体的な介護サービスの利用が始まります。

介護サービスの種類

介護施設での食事風景

以下は介護認定後利用可能な主なサービスです。要介護度により利用できないサービスもあるため、詳細はケアプラン作成時に確認する必要があります。(要介護のみが利用できるサービスは青字で表示していますR6.7.31現在)

【自宅に訪問】

  • 訪問介護(ホームヘルプサービス):介護職員が自宅を訪問し、利用者の食事の準備、掃除、洗濯、買い物などの日常生活の支援を行います。また、入浴介助や身体介護も含まれます。
  • 訪問看護:看護師が自宅を訪問し、医療的なケアを提供します。例えば、在宅酸素処置、バイタルサインのチェック、リハビリなどが行われます。医師の指示に基づいて、必要な療養上の世話や診療の補助を行います。
  • その他、訪問入浴、訪問リハビリ/夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(要介護のみ)など

【施設に通う】

  • デイサービス(通所介護/要介護のみ):日中、専用の施設に通い、食事、入浴、リハビリテーション、レクリエーション活動を行います。デイサービスは、利用者が社会参加を促進し、孤立を防ぐための場でもあります。
  • デイケア(通所リハビリテーション):医療機関やリハビリテーション施設で提供されるサービスで、主にリハビリテーションを目的としています。理学療法士や作業療法士が、利用者の身体機能の回復や維持を支援します。
  • その他、地域密着通所介護、療養通所介護(要介護のみ)、認知症対応通所介護など

【短期宿泊】

  • ショートステイ(短期入所):一定期間、介護施設に短期間入所し、日常生活の介護を受けるサービスです。家族の介護負担を軽減するための休息(レスパイトケア)として利用されることが多いです。
  • その他、短期入所療養介護など

【訪問・施設通所の組み合わせ】

  • 小規模多機能型居宅介護/看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス/要介護のみ)

【施設等で生活】

  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム・特養/要介護のみ):常時介護が必要な高齢者が入所し、生活全般の介護を受ける施設です。入所者は24時間体制で介護職員や看護職員から支援を受けます
  • 介護老人保健施設/老健(要介護のみ):リハビリテーションを中心としたケアを提供する施設で、家庭復帰を目指している高齢者が対象です。医師、看護師、リハビリ専門職が連携してケアを行います。
  • 介護医療院(要介護のみ):医療と介護を一体的に提供する施設で、長期にわたり療養が必要である利用者が、可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、必要なサービスを受けることができます。
  • その他、介護療養型医療施設(要介護のみ)・特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム・軽費老人ホーム等)

【地域密着サービス(地域に密着した小規模な施設用)】

  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)・地域密着型介護老人福祉施設(要介護のみ)・地域密着型特定施設入居者生活介護(要介護のみ)

【福祉用具の利用】

  • 福祉用具貸与/寝台、車いす、手すり、歩行器など(要介護度によって保険給付対象にならない場合あり)
  • 特定福祉用具販売/腰掛便座、簡易浴槽など(要介護度に応じて異なる)

※令和6年7月時点での情報です。利用方法の詳細、最新の情報等は厚生労働省等のHPでご確認ください。

【費用負担】

介護サービスの利用には一定の費用がかかりますが、その大部分は介護保険でカバーされます。利用者は、原則として1割から3割の自己負担分を支払います。自己負担割合は、利用者の所得に応じて異なります。

介護保険法による社会的効果

みんなで支えるコミュニティ

介護保険法により「介護保険制度」が充実することで、社会的に様々な効果がありました。

  • 社会的負担の分散:介護の負担が個人や家庭だけでなく、社会全体で支えるような仕組みになりました。
  • 介護サービスの充実:多様な介護サービスが提供されるようになりました。訪問介護、デイサービス、ショートステイ、施設介護など、利用者のニーズに応じたサービスが利用でき、介護の質が向上しました。
  • 介護予防の促進:要介護状態になる前の段階での介護予防にも力を入れています。要支援の高齢者や、高齢者に向けた地域での介護予防活動や、健康増進プログラムなどが展開され、高齢者の健康維持が図られています。
  • 介護労働者の育成と確保:介護労働者の需要は増え、それに伴い介護職の育成と確保が進められています。これにより、介護サービスの質を維持・向上させるための基盤が整えられています。
  • 地域包括ケアシステムの構築:介護保険法の一環として、地域包括ケアシステムの構築が進められています。これは、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう、医療、介護、生活支援が一体となった支援体制を整えることを目的としています。
  • 財政面での効果:介護費用が明確化され、予算の配分や管理がしやすくなりました。財源の一部は被保険者の保険料から賄われており、これにより持続可能な介護サービスの提供が可能となっています。

まとめ

老いても元気で明るい老人たち

いかがでしたか。今回は「介護保険制度」に焦点をあて皆様にお伝えしました。40歳以降保険料を納めている「介護保険」の仕組みについて、ご理解いただけましたか。何れは家族や自分自身がお世話になるであろう「介護保険制度」は、介護が必要になった時、自立した生活を送るために必要な制度です。今後も最新の改訂情報等を確認しながら、必要な時に必要なサポート、サービスが利用できるよう情報をアップデートして下さい。

【出典・引用】厚生労働省HP「介護サービス情報公表システム」より