「社会保険」についてわかりやすく解説します~前編~
自分の力である一定以上の収入を得るようになると、ご家族の扶養から外れ、様々な社会の仕組みを直接利用するようになります。この記事では弊社の新入社員に説明する一般的な「社会の仕組み」の中から「社会保険」についてさらに詳しく解説し、2回にわたりお伝えします。新入社員以外の方も是非ご確認ください。
社会保険の仕組み
日本における広い意味での「社会保険」は、「医療保険、年金保険、介護保険、労働保険」の4つに分類されており、これら4種類の保険はさらに細分化され、その制度や対象者、加入条件、保障内容、保険料などが、各保険ごとに細かく取り決められています。この章ではその中でも「医療保険」について解説いたします。
日本の公的医療保険
日本には「全ての国民が必ず公的な医療保険に加入する」「国民皆保険制度」と呼ばれる制度があり、何らかの「公的医療保険」に加入することが義務付けられています。あなたはどこの「医療保険」に加入しているか知っていますか?保険への加入証明書である「健康保険証」を医療機関利用時に提示することで自己負担額を低く抑えられることは知っていても、どこの医療保険に加入しているか、診察以外の利用方法はあるのか、など詳細を知らない方が多いのではないでしょうか。ここでは複数種類存在する「医療保険」についてわかりやすく説明いたします。
国民健康保険とは
国民健康保険とは「自営業・農業・漁業・無職等」会社などの健康保険(被用者保険)に加入していない74歳以下の人が加入する保険です。保険料は前年の世帯所得で算出され、納付書または口座振替により、それぞれで納付します。病院での窓口負担額は医療費の3割です。(3歳未満、70歳以上では負担割合が若干異なる場合があります)
健康保険(被用者保険/ひようしゃほけん)とは
被用者保険と呼ばれるこの保険は「公務員・会社員・船員・その扶養家族など」が加入する健康保険です。健康保険の適用事業所(健康保険に加入している会社)で働く従業員は、基本的には会社が加入する健康保険を利用します。(一定の加入条件を満たさない場合は、個人で国民健康保険に加入する場合もあります)保険料は一か月に支払われる予定給与額(通勤費なども含む)から「標準報酬月額」という考え方に基づき決定します。適用事業所が最も多い「全国健康保険協会(協会けんぽ)」は事業主の所在地によっても保険料率が変わります。保険料は雇用主が事業所負担分と個人支払い分を合算して各保険者(健康保険組合)に納付するため、個人負担分の保険料は給与から控除(給与から引かれる)されることが一般的です。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、社会保険料や保険給付額などを決定するための基準となる額で、被保険者が雇用主から支払いを受ける給与などの報酬の月額から算出されます。具体的には「基本給、役付手当、勤務地手当、通勤手当、住宅手当、残業手当、その他各種手当」など、労働の対価として、現金または現物で支給されるものの支払予定月額を合計し、標準報酬(等級)を決定します。通常は入社時または加入条件を満たした場合にはその時点で(資格取得時の決定)、それ以降は7月1日現在の被保険者を対象に、毎年4月・5月・6月の3か月の給与平均額を算出し「標準報酬月額表」と呼ばれる表に照らし合わせ保険料が決定し、同年の9月から翌年の8月まで、新しい保険料が適用されます。(定時決定)通常保険料の改定は前述の定時決定と呼ばれる年1回の変更のみですが、報酬の月額(昇給、通勤費の変更、その他など)に大きな変動がある場合は、定時決定を待たずに随時改定される場合もあります。(随時改定)この改定は昇級や降給、給与体系の変更、各種手当の変更などにより月額報酬に変動があり、以降3か月間支給された報酬(含む残業手当)の平均月額に該当する標準報酬月額等級に2等級以上の差が生じた場合、かつ各月とも賃金支払い対象日が一定の日数を超える事などが条件となります。
参考:令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(千葉県)
医療機関支払い以外の保障を確認!
国民健康保険や被用者保険に加入し健康保険証を提示することで、医療機関での窓口負担金が軽減するのは、広く知られていますが、それ以外にはどの様な保障があるのでしょうか。この章では「国民健康保険」「協会けんぽ」を例としてその保障内容を比較確認してみます。(加入健康保険組合により保障内容は異なりますので、詳細はご自身が加入する健康保険制度をご確認ください)
出産時の補助はある?
国民健康保険、協会けんぽのどちらの保険にも、出産時にかかる医療費への補助があります。「出産育児一時金」と呼ばれるこの制度は、妊娠4ヶ月(85日)以上の方の出産に対する給付で、事前申請することで、通常は出産にかかる高額な病院窓口での支払いと「出産育児一時金」が相殺され、自己負担額が少なくなります。事後申請の場合は本人が直接保険者(健康保険組合)へ申請します。
医療費が高額になる場合は?
入院等で高額な医療費の支払いが事前に確認できている場合や、既に支払い済みの医療費などが高額であった場合など、保険診療である一定の上限額以上の支払いが発生する場合は、高額医療への給付金の対象になります。給付額は申請者の収入などに応じて、保険診療での医療費自己負担額の上限が決定し、その額を超えた場合が保険給付されます。申請方法は事前に申請することで発行される証明書の提示により、医療機関窓口での支払いを軽減できる「限度額適用認定制度」、支払い後に申請し自己負担額を超えた部分が還付となる「高額療養費」などがあります。
上記出産育児一時金、高額医療の2つの制度は、国民健康保険、被用者保険のどちらの被保険者にも適用される内容でした。これ以降にご紹介する保障内容は弊社が加入する「協会けんぽ」の制度となりますのでご注意ください。
業務外での病気やケガへの給与保障
業務外の病気やけがなどで労務不能と診断され、連続して4日以上お休みをすると、「傷病手当金」の申請が可能になります。この傷病手当の申請には医師による診断とそのお休み期間、事業主から給与の支払いがないこと(一部支給の場合は手当金が減額になる場合もあり)、連続して4日以上お休みをしていることなどが条件となり、基本的な給付額は「12か月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」(該当しない場合は別の計算方法あり)で算出され、お休みの4日目からが支給対象日になります。
産前産後休業時の給与保障
病気やケガ以外の長期休暇として、産前産後休業時の給与保障である「出産育児手当金」制度があります。給付額の計算方法は傷病手当と同様、「12か月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」(該当しない場合は別の計算方法あり)で算出されます。
国民健康保険と被用者保険の大きな違い
その他企業独自の健康保険組合、同業種が集まる健康保険組合、公務員などが加入する共済組合など、被用者保険と呼ばれている健康保険は複数存在しています。各保険によりその制度や保障内容は異なりますが、国民健康保険と被用者保険との大きな違いの一つとして、被用者保険には「扶養」という考え方があります。ある一定の条件を満たすことで「被扶養者」の認定を受けると、被扶養者の健康保険料は免除になります。(条件から外れるとそれ以外の健康保険への加入が必要になります。)また、被用者保険の保険料は個人が支払うべき保険料の半分を雇用主が負担する仕組みとなっており、上記にあげた2点は、被用者保険加入のメリットでもあります。
被扶養者とは
被用者保険の手続きなどでよく耳にする「被扶養者」とは何でしょうか。「健康保険の被扶養者」の認定を受けると被保険者(保険に加入している本人)が加入する健康保険組合から「被扶養者の健康保険証」が発行され、保険料を支払いすることなく、医療機関での窓口負担額が医療費の3割になります。被扶養者の認定を受けるには健康保険加入者との関係とその収入が大きくかかわります。その認定基準を協会けんぽ2023年12月現在の情報から以下に示します。
扶養の範囲
保険加入者(被保険者)の直系尊属(両親、祖父母、曾祖父母)、子、孫、配偶者、兄弟姉妹で保険加入者に生計を維持されている人(※一定の条件を満たせば同居でなくてもOK)
被保険者と同一の世帯(同居し家計を共にしている状態であること)で被保険者の収入により生計を維持されている3親等以内の親族、被保険者と事実上婚姻関係である人とその父母、及び子
※ただし後期高齢者医療制度の被保険者等は除く
扶養の収入要件
被扶養者の認定を受けるための収入要件として、被保険者の収入で生計維持されていることが必要になります。具体的には、「認定対象者が同一世帯」にある場合、60歳未満の認定対象者は年間収入が130万円未満かつ被保険者の年収の2分の1未満であること、60歳以上または障害厚生年金受給可能な程度の方の収入は180万円未満であることが必要です。
「認定対象者が同一世帯ではない」場合、年間収入が130万円未満であり、被保険者の援助より認定対象者の収入が少ない場合は被扶養者の要件を満たすことができます。
※年間収入とは過去の収入ではなく、それ以降の年間見込み収入額です。この収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金なども含まれます。
※収入が被保険者の収入の半分以上の場合であっても、被保険者の年間収入を超えず、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者と認められることがあります。
後期高齢者医療保険
後期高齢者医療保険は仕事をしている、していないにかかわらず75歳以上のすべての人が加入する健康保険です。基本的にはそれまでに加入していた健康保険から自動で切り替わるため手続きは不要です。ただし、新たに後期高齢者医療保険に加入する方の被扶養者となっていた方は国民健康保険、または別の被用者保険への加入が必要となります。保険料の支払いは「年金から控除」「納付書による支払い」のどちらかとなり、保険料は「均等割り部分」と「所得に応じた支払い部分」の合計です。医療を受けるための窓口自己負担額も収入により異なります。
介護保険制度とは
高齢化社会に備え、2000年に施行された介護保険制度は、社会全体で高齢者の介護を支えあうような仕組みになっています。40歳誕生日月の給与明細からいつの間にか「介護保険料」控除が追加されますね。なかなか知る機会が少ない「介護保険制度」について、その仕組みをお伝えします。
介護保険の対象者
40歳以上になると介護保険の「被保険者」となり、介護保険料の納付が義務付けられています。被保険者は「65歳以上になり介護が必要な場合」、または「40歳~64歳の間で国が定める16の特定疾病により介護が必要であると認定を受けた場合」はそのサービスを利用することができます。介護保険では65歳以上を1号被保険者、40歳~64歳までを2号被保険者と呼びます。
介護保険料の決定と納付
介護保険制度の財源は、被保険者の保険料が50%、残り50%は公費(税金)で賄われています。2023年現在の被保険者負担割合は1号被保険者が23%、2号被保険者が27%です。具体的な保険料金の決定方法は以下になります。
1号被保険者
65歳以上の1号被保険者が負担する介護保険料は、住民票がある市区町村が定める基準額と被保険者の前年所得によって決定します。納付方法は健康保険料と同様原則は年金から控除ですが、場合によっては納付通知書が送付され、それに従い納付します。
2号被保険者
40歳以上64歳までの2号被保険者が負担する介護保険料は、所得や地域、被用者保険加入先によって異なります。保険料は加入している健康保険料と併せて徴収となるため、被用者保険加入者は給与から控除され、保険料は原則事業主と折半です。一方、国民健康保険加入者は納付書、または口座引き落としとなるのが一般的です。
介護サービスを利用するには
40歳から義務が発生する介護保険料を支払い、要介護認定を受けることで、介護サービスの利用が可能になります。申請は各自治体へ行い、その後「職員面談」「医師への意見聴取など」により、1号被保険者は「要介護状態」「要支援状態」であるかの審査を受け、認定されるとその段階に応じて、利用できるサービスやサービスの利用料金など(支給限度額)が決まります。2号被保険者は16の特定疾病による要介護、要支援状態になった場合のみ、同様の審査後認定を受けるとサービスの利用が可能になります。
介護サービス内容
介護保険が適用となる「介護サービス」はそのサービスを利用するためのプランナーと共にプランを作成し実施されます。サービスは大きく分類すると「訪問による介護」「施設に通う介護」「施設に宿泊を伴う介護」「福祉用具の貸与」などがありますが、その内容はさらに細分化されており、複数のサービスを組み合わせて利用する事が可能である場合もあります。
介護サービスを上手に利用する
介護保険はご自身が1号被保険者でなくても、身近な方が利用する可能性があります。例えばご家族の介護が必要になったとき、この制度を上手に利用し、ご自身やご家族の負担を軽くすることも可能です。
介護保険に関する詳細は「厚生労働省HP_介護保険制度の概要」をご覧ください。
まとめ
いかがでしたか。任意の保険に加入する場合は詳細な保障を確認しますが、健康保険加入時にその保障を確認し、利用している方は意外と少ないのではないのでしょうか。この記事では触れませんでしたが「高額医療に対する貸付」や「埋葬費」等の給付がある場合もありますので、ご自身が加入している健康保険組合の保障内容をご確認ください。前半では「社会の仕組み」の中から「医療保険」「介護保険」についてお伝えしました。後半は「労働保険」についてその詳細を解説します。
【出典:厚生労働省HP、全国健康保険協会HP】