モータ誕生の歴史とそのエピソード~後編~

モーターパーツの様子

モータは私たちの暮らしをより豊かに、より快適にしてくれる、今やなくてはならない存在となりました。前編では主にモータ誕生の歴史とその開発に携わった研究者たちに触れながら「モータ」にまつわるエピソードをお伝えしましました。後編ではモータを構成する主なパーツとその役割について、そのパーツの誕生や、実用化が進む中増えていく要求事項に対してどのように進化したのか、などをお伝えします。モータワールド第二弾です!

モータ需要拡大と進化

ニコラ・テスラの開発により実用化が進んだ「モータ」はその使用用途などにより、要求事項も増え、材料や製造方法の開発、研究が進みます。この章ではモータを構成する主なパーツの誕生や進化などに触れながらモーターパーツをご紹介します。

モータを構成するパーツ

モータを構成するパーツの進化過程をお伝えする前に、モータを構成する主なパーツとその役割をお伝えします。以下は一般的なモータの主な構成要素で、モータータイプや使用用途によってその組み合わせやサイズなどの詳細は異なります。

ロータ (回転子)

蓋を取り付けたロータ

モータの中で、一般的には回転する部分を指します。ロータは通常、モーターシャフトと呼ばれる軸に取り付けられ、モータの回転を生成します。ロータの形状と設計は、モータータイプによって異なります。

ステータ (固定子)

ロータを囲む静止した部分はステータ(固定子)と呼ばれ、永久磁石や巻線が組み込まれているものもあります。電気が流れることでステータ内では磁場が生成され、ステータの内側に設置されているロータに力を伝達し、ロータが回転します。

コイル (巻線)

モータのステータ内に配置されたコイル(巻線)で、電流を流すことによって磁場を生成します。この磁場はロータを動かすための力となり、ステータによってその力がロータへ伝わります。コイル(巻線)は通常、銅線などの導体(電気を通すもの)で作られており、コイル(巻線)の配置と電流の流し方によってモータの動作が制御されます。

永久磁石

ステータ内の永久磁石

一部のモータは、ロータまたはステータに永久磁石を使用して磁場を生成します。永久磁石とは外部から電流や磁気を供給されることなく磁石の性質を保つことができるもので、この永久磁石を利用することで、モータは外部電源がなくても一定の磁場を作り出すことが可能です。

コミュテータ(整流子/Commutator)

一部のモータ、特にDCモータ(直流/Direct Cuurent Motor)には、電流を反転し、ロータを回転させるために使用されるコミュテータ/整流子(直流モータの三大要素で紹介)とブラシが組み込まれています。これにより、ロータの回転方向を制御することが可能になります。コミュテータは電流の向きを変え、その流れを一定の方向に保つためのスイッチの役割を担っています。

ブラシ (Brush)

DCモータ(直流/Direct Cuurent Motor)で電気を流す役割を果たすのがこの「ブラシ」と呼ばれる部分です。ブラシがコミュテータに触れるとコミュテータからコイルへ電流が流れます。ブラシ付きDCモータ(コミュテータを使用するモータ)には、電気を流しコミュテータと接触するブラシが組み込まれています。これにより、電流がロータに伝わります。

モーターシャフト(出力軸/Motor Shaft)

ロータを支え回転運動を伝えるための軸となる部分です。モータはその電気エネルギーを回転運動に変換させ、その力はモーターシャフトによって出力されます。

ベアリング(軸受け/Bearing)

ベアリング

モーターシャフトの支えとしてベアリング(軸受け)が使用されます。ベアリングはロータのスムーズな回転をサポートします。ボールベアリング(玉受け)やローラーベアリング(ころ受け)が一般的に使用されます。

ボールベアリングとは

転がり運動で物の動きをサポートする部品(転道体といいます)が球形のベアリングで、接点が「点」となり、接触部分が少なく摩擦の影響を受けにくいことから、効率よく速い速度で回転することが可能です。

ローラーベアリングとは

転道体が円筒形のベアリングで接点が「線」であるため、回転速度はボールベアリングと比較すると遅くなりますが、耐久性に優れています。一般的にはボールベアリングより高価であるといわれています。

モーターパーツ誕生と進化

モーターパーツ

前章でご紹介したモータを構成する主なパーツは、それぞれが進化し、モータ性能の向上に大きく貢献しています。この章ではモータの主な構成パーツについて、その発見や誕生、エピソードなどに触れながらモータの主なパーツの「昔」と「今」をお伝えします。

巻き線の誕生

巻線製造の様子

巻き線は導体(電気を通すもの)に絶縁被膜(電気を通さないもの)が施された製品で、モータの電気エネルギーと磁気エネルギーを効率よく伝えるためのパーツです。

「電気は流れる」を発見

18世紀の初め、イギリスのアマチュア科学者である染物屋のスティーヴン・グレイ(Stephen Gray)は科学者としては恵まれた環境ではありませんでしたが、天文学と自然科学への興味からそれらを独学で学びました。実験の中で彼は「電気は物体を通して伝わること」を発見します。実験を重ね、電気を伝えるためには漏電させない(絶縁する)ことが大切であることも発見、「電気を通すもの」「電気を通さないもの」を使い実験を続けました。彼の手で「電気は流れる」ことを立証することはできませんでしたが、その後多くの科学者が様々な実験を行い、「電気は流れる」ことが立証されました。

アメリカの物理学者であるジョセフ・ヘンリー(Joseph Henry)などの研究では、絹によって絶縁された導線を巻き付けた鉄芯で、電磁石を作ることに成功し現代の巻線に近づいていきます。巻線を構成する「導体(電気を通すもの)」は鉄から伝導性能が優れている銅へ、「不導体(電気を通さないもの)」である絶縁被膜は綿や絹、ガラス、ゴム、エナメル樹脂、合成樹脂など様々なものがあり、使用用途によって選定されています。

永久磁石

100円均一でも当たり前のように販売されている磁石。子供のころの一番初めの実験が「砂鉄集め」だった方も多いのではないでしょうか。この不思議な磁力はどのように発見され、モータに使用する磁石はどのように変化したのかをお伝えします。

磁石の発見
ギリシャマグネシア地方

紀元前の古代ギリシアにあるマグネシア(Magnesia)というマグネシウム鉱石(炭酸マグネシウム鉱:MgCO3)の産地であったであろう場所で、遊牧民もしくは牛飼いの杖や靴などにくっついた天然磁石・磁鉄鉱(マグネタイト:Fe3O4)を発見したことが磁石の始まりと言われています。この「マグネシア」という地名から、磁石はマグネット(Magnet)と呼ばれるようになった、という説が有力です。

モータ部品としての永久磁石
ネオジムの周期表

モータ開発が進む中、1900年以降、永久磁石による磁力向上の研究も進みました。モータにはフェライト磁石やアルニコ磁石を利用することが一般的でしたが、これらは磁力密度が低いため、さらに性能の高い磁石が求められるようになります。1960年以降、希土類元素(レアアース/rare earth)の「希土類磁石」が注目され、モータは求められている「効率性」「小型化」「低騒音」「高トルク」を実現すべく使用する磁石もネオジム磁石のような強力な磁力を有するものが主流となります。

【フェライト磁石】主成分は酸化鉄とそれ以外の金属元素をもとにした磁石です。安価で耐腐食性に優れており、大量生産が可能です。最も一般的に使用されている磁石です。

【アルニコ磁石】主成分は鉄、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、その材料の元素記号がそのまま「AlNiCo」磁石の名前になりました。耐熱性に優れていますが希土類元素(レアアース/rare earth)であるコバルトが含まれているため、高価です。

【サマコバ磁石】サマリウム(Sm)とコバルト(Co)の合金で耐熱性にも耐腐食性にも優れているこの磁石はアルニコ磁石同様、希土類元素(レアアース/rare earth)を使用するため高価です。

【ネオジム磁石】ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とする磁石で希土類元素(レアアース/rare earth)のネオジムが含まれています。耐腐食性、耐熱性は前述した磁石に劣りますが、フェライト磁石の約10倍の強さと耐久性から、一般的なモータ部品として現在使用されている磁石です。

磁石の選定はモータの使用用途によって求められる性能も異なりますが、強力な磁力と耐久性に優れた素材を利用することでモータの出力が飛躍的に向上し、コンパクトで高性能なモータの製造が実現できるようになりました。

整流子の発見者はダイナモ発明者

交流発電機の原型となる手回し発電機(ダイナモ)を発明したフランスの技術者ヒポライト・ピクシー(Hippolyte Pixii)は協力者たちの提案により、交流を直流に変換する整流子を発明したといわれています。当時の整流子の素材を確認することはできませんでしたが、一般的には銅、または銅合金が使用されています。

ブラシの素材は摩擦接触する部分で決まる

モータに組み込まれている整流子とブラシ

ブラシの素材は整流子と摩擦接触する部分で決まり金属、特殊貴金属、カーボンなどで作られています。最近ではブラシと整流子を必要としない「ブラシレスモータ」も活躍しています。ブラシレスモータについては別の記事でご紹介いたします。

強さを追求したシャフト

モータのシャフトはモーターコアを支え回転運動を伝える重要な「柱」です。モータが発明された頃のシャフトはモーターコアと同素材の「鉄」または「鋼」が使用されていたといわれていれます。モーターコア素材が電磁鋼板に変わり、一般的な鋼鉄製のシャフトはその重量や剛性から軽さや強さが求められる様になり、チタン合金や炭素繊維強化プラスチックなどの軽量で高強度な素材が開発され、これらの素材を使用することで、シャフトの軽量化と耐久性向上が実現しました。

ベアリングの発想は古代エジプトから

古代エジプトの大きな石を使った建物

様々な産業機械などに使用されている「ベアリング」の発想は、古代エジプト時代に発明され、その後重量物運搬などに利用される様になったと言われています。巨大な石を利用した建築物やそれ以外の重量物を運んだり、ものをスムーズに動かしたりするため、人々は知恵を絞り、より楽に、より早く動かすことができる方法を探りました。試行錯誤の結果、「動かしたいもの」と固定されているものの間に転がる物や、滑る物をおき、物を動かした事がベアリングの始まり、と言われています。

産業革命時代以降、使用用途に合わせて様々なベアリングが開発されます。モータのベアリング素材は一般的には鉄や鋼が多く利用されていましたが、合金製のベアリングをはじめ、セラミック樹脂製、ステンレス合金製、など、様々な素材、特性をもつ多種のベアリングが存在しています。ベアリングはロータの軸となるモーターシャフトの運動を安定させ、回転運動を円滑かつスピーディーに保つ役割を果たします。進化したベアリング技術により、摩擦損失も減少し、モータの効率は更に向上していくでしょう。

モータの心臓部分「ロータ・ステータ」

ロータとステータ

モータの中心にある「ロータ、ステータ」はセットで「モーターコア」と呼ばれています。その名の通りモータの「core(核)」でありモータの心臓部です。モーターコアの進化は前編で触れた「素材の改良」や「製造方法の変更」などがあげられますが、設計段階からの改良も行われています。モーターコアの素材として使用されている電磁鋼板は、より「薄く」することで鉄損が減少することから、厚さが1ミリ以下の電磁鋼板も製造されるようになりました。電磁鋼板製造工程で添加する物質も各社で工夫され、「強さ」と「効率」を高めるべく、開発が続けられています。電磁鋼板の改良によって「モータコア」はさらに進化を続けています。

まとめ

モータの青写真

いかがでしたか?2回に渡りお伝えした「モータ」のお話し。通常は「モータ」自体も「家電製品」や「車」などに組み込まれているため、なかなかお目にかかることはありません。モーターのパーツとなれば尚のこと、初めて聞いたパーツ名もあるかもしれません。後編の記事はそんな通常陽の目を見ないパーツにも焦点を当てながらモータについてご紹介しました。身の回りの物にモータが使われ、多くの人々の努力によってその動力が誕生していることを想像しながら、モータ製品を利用していただけると大変うれしく思います。

もっと暮らしを快適に!モータ誕生の歴史とそのエピソード~前編~