電磁鋼板の基本的な製造工程を大公開!
弊社が素材として仕入れている電磁鋼板は、どの様な工程で製造されているのでしょうか。この記事では弊社社員にもぜひ教えたい、「電磁鋼板の基本的な製造工程」を分かり易くお伝えします。
電磁鋼板はどのようにして作られているか?
電磁鋼板は、特殊な鋼の一種で、電気と磁気の力を有効的に活用することができる優れた素材です。電磁鋼板を製造するための素材である通常の鉄に、微量の合金元素を添加したり、製造工程で「加熱」「加圧」「冷却」を繰り返したりすることで、「鉄」は「電磁鋼板」として生まれ変わり、優れた磁気特性を持つようになります。鉄を薄く伸ばしただけではない、電磁鋼板の基本的な製造工程について一緒に学習しましょう。
材料選定
電磁鋼板の製造は、高品質な鉄鉱石の選定から始まります。鉄鉱石は鉄を取り出すための原料で、より高純度の鉄を抽出する必要があるため、品質の高い物が選ばれます。鉄鉱石の選定は主に以下の内容に従い行われます。
鉄鉱石の品質
【純度】 鉄鉱石の選定で最も重要な要因の一つとして、鉄鉱石の純度があげられます。鉄分が高く、不純物や他の鉱物が少ない、純度が高い鉄鉱石を原料とすることで、製品の品質を向上させます。
【酸化鉄含有量】 鉄鉱石中には酸化鉄が含まれています。高濃度の酸化鉄は、鉄を取り出す際に多くのスラグ(酸化物の層・・・後述あり)を生成し、製造過程を難しくします。そのため、酸化鉄含有量が少ない方が望ましいといわれています。
鉱石の形状
【粒度】 不均一な鉱石は、プロセス中にムラを引き起こす可能性があるため、一般的には細かすぎず、大きすぎない粒度で、大きさは均一性がある方が良いとされています。
地理的位置
【鉄鉱石の鉱山の場所】 鉄鉱石の鉱山は地域によって含有物が異なる事もあるため、地理的な面も選定要因の一つとなります。また、遠方からの輸送はコストや労力を考慮する必要もあります。
鉄鉱石の保存と輸送
【保存条件】 鉄鉱石を適切な条件で保存し、品質が低下する事が無いよう、湿度等の管理を行いながら輸送します。
以上の様に鉄鉱石の選定は、製造工程全体の効率性と製品の品質に影響を与えるため、慎重に行う必要があります。
鉄を取り出す仕組み
鉄鉱石からの鉄を取り出す工程(製銑工程/せいせん)は、鉄鉱石を高温で溶かし液状の鉄(溶銑/ようせん)を得ることから始まります。製銑工程で鉄鉱石から取り出された鉄(銑鉄/せんてつ)は、まだまだ不純物を含んでいます。これらの不純物は取り除く必要があるため、更に加熱、加工(製鋼/せいこう)します。製銑工程は高炉(高さのある円筒形の炉で銑鉄を取り出す役割)、製鋼工程は転炉(銑鉄を鋼に転換する役割)と呼ばれる設備で行われます。これらの過程で酸素によって酸化した不純物が酸化物の層として分離し、この酸化物の層(スラグと言います)を除去する事で純度の高い銑鉄となり、更に不純物や余分な炭素を除去し「鋼」が完成します。その工程を簡単にご説明します。
高炉投入前の準備
自然界に存在する鉄鉱石は酸化鉄として存在しているため、酸素と不純物を取り除く目的で炭素源(通常はコークスと呼ばれる蒸し焼にした石炭)を準備します。
高炉への投入
鉄鉱石とコークスは「高炉」と呼ばれる大型の溶鉱炉に交互に投入されます。高炉の高さは通常、数10メートル、大きい物では高さが100メートルにも及ぶ設備もあります。
加熱と還元
高炉内では、鉄鉱石とコークスが1000℃から1200℃前後の高温で加熱され、このプロセスにより、鉄鉱石中の酸素が還元されます。酸素は酸化ガスとして排出され、鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分(石灰石やコークスの不要物)が溶融鉱物の層(高炉スラグと言います)として分離します。鉄は液状の状態で底部にたまります。
鉄の収集
高炉底部にたまった液状の鉄は、高炉内での加熱、還元の工程により、純度の高い銑鉄が溶けた溶銑の状態で回収されます。一方、この工程でスラグとして分離した不純物は、高炉の上部から排出されます。この段階で銑鉄には2~3パーセントの炭素を含んでいると言われています。
銑鉄から鋼へ
高炉から出銑(しゅっせん…液体状の銑鉄を取り出すこと)された銑鉄は「転炉」と呼ばれる、不純物を更に除去し成分を調整する炉へと運ばれます。この転炉は高炉工程で使用された還元剤、コークス中の炭素やその他不純物を除去する役割を担っています。転炉内の銑鉄は空気や酸素を主とするガスを吹き付けられることで、銑鉄に含まれている炭素(C)は酸素(O₂)と酸化反応を起こし、その結果、銑鉄に含まれた余分な炭素が除去されます。それ以外の不純物(二酸化ケイ素、リン、マンガンなど)も酸化反応を起こし転炉スラグとして分離します。スラグと分離して溶けた鋼(溶鋼…ようこう)は更に二次精錬(不純物の除去、成分調整)を行い、より高品質な電磁鋼板の材料である溶鋼が完成します。
溶鋼の固化
溶鋼は加工しやすいよう一定の形に固めます。この工程は鋳造(ちゅうぞう)と呼ばれています。鋳造は連続して鋼を固める連続鋳造機(れんぞくちゅうぞうき)で行われ、半製品である鋼片(スラブ・ビレット・ブルーム・ビームブランク/注釈あり)を作り出し、次の工程に引き継ぎます。この段階で鋼片はそれぞれの使用用途に合わせた形状で半製品となる為、これ以降の工程は鋼片の形状によって異なります。以下に分類された「スラブ」が「電磁鋼板」の素材となります。
【鋼片の形状】
- スラブ:巨大なかまぼこ板のような形状で厚板や薄板など加工される
- ビレット:巨大な円柱又は角柱の形状、継目無鋼管、線材(細い円柱状)、形鋼(断面が山型、I型、H型などの形状)などに加工する
- ブルーム:スラブより小さく断面がほぼ正方形で160mm角以上。
- ビームブランク:ブルームの中でも特にH型に近い形に鋳造された物でH型形鋼専用の素材
鋼片から鋼板へ
鋳造工程で製造された鋼片は、複数のローラーを回転させ材料を挟み、圧を掛けて薄い板状に加工する「圧延」と呼ばれる工程に進みます。この圧延工程は鉄鉱石から純粋な鉄を取り出した後の重要なステップです。これにより、鋼板の厚さが調整され、最終的な使用用途に合わせて、鋼板の微細な結晶構造が整えられ、物理的特性が向上します。微細な結晶構造は、鋼板の磁気特性にも影響を与えます。圧延工程は熱を加えて行う「熱間圧延」と常温で行う「冷間圧延」があります。鋼板はこの2種類の工程を組み合わせ、電磁鋼板の特性に更に磨きをかけていきます。
熱間圧延
鋼片を900℃から1200℃程度の温度にまで熱して圧延を行う圧延加工を「熱間圧延」と言います。この温度は鋼片が真っ赤に焼けた状態になる、再結晶温度(崩れた結晶が再び整う温度)よりも高い温度です。この工程では鋼片を加熱し柔らかくしてから圧延するため、加工しやすく大量生産が可能です。一方、高温加熱の処理による酸化被膜(空気中酸素と金属表面の結合)の生成により、表面は粗く、次にご紹介する「冷間圧延」と比較すると表面光沢がない為美しさに欠けるというデメリットもあります。
冷間圧延
冷間圧延は材料を常温で圧延する圧延加工です。この冷間圧延は通常、熱間圧延である程度薄く伸ばした鋼板の、表面を覆っている酸化被膜を洗浄処理にかけてから行われます。洗浄された鋼板は冷却するわけではなく、常温でローラーの回転により更に薄い板状に加工され、使用用途によっては0.5ミリ以下の極めて薄い鋼板も製造されます。
圧延による効果
上記熱間圧延、冷間圧延のプロセスによって鋼板は必要とされる厚さに加工されますが、この圧延による効果は目に見える「厚さが薄くなるだけ」ではありません。鋼板はこの加熱、圧延、冷却を繰り返すことで、目に見えない結晶構造にも変化をもたらします。この現象は結晶の微細化、と呼ばれ、これは鉄の結晶粒が小さくなることを意味し、電磁鋼板の物理的特性である硬度と強度の増加や、耐久性向上等の効果があります。また、結晶粒は圧延することで一定の方向に向きがそろってきます。更に冷間圧延後の鋼板は、表面が平滑に整えられ、鋼板の塗装やコーティングを容易にし、外観は美しくなります。
圧延工程は、鉄鉱石から得られた純粋な鉄を、電磁鋼板の基本材料として適した形状と性質に調整を行いながら加工する工程です。
圧延後の焼鈍処理
圧延工程を終えた電磁鋼板は、連続焼鈍炉(れんぞくしょうどんろ…焼き鈍しの炉)での加熱、その後の冷却により更に硬度と強度が増し、特性が向上します。
表面処理
焼鈍工程を終了した電磁鋼板はいよいよ最終工程の「表面処理」工程へと移ります。表面処理は不要物を取り除く作業、及び「絶縁被膜(電気を通さない絶縁性のある被膜)」コーティングを行います。
最終検査と出荷
表面処理が施された電磁鋼板は、最終的な寸法の確認と品質検査が行われます。寸法が仕様に合致しているかどうか、表面に欠陥がないかどうか、などをチェックし出荷用倉庫に移送されます。移送された電磁鋼板は出荷先の場所に応じて最適な手段で搬送されますが、基本的には船積みで、その後港で荷を下ろし、トレーラーに積んで最終目的地へ向かうのが一般的です。電磁鋼板はこの長い工程を経て弊社幕張工場へ納品されます。
まとめ
いかがでしたか?電磁鋼板製造の工程では、実は分子レベルでの微調整、酸化、還元と、加熱、加圧、冷却を繰り返すことでより精度の高い電磁鋼板を作り出すべく、とても長い時間と労力そして資金を費やしていたことがお分かりいただけましたでようか?見た目は鉄を薄く延ばしてロール状に巻いただけの鉄ですが、実は付加価値が高く加工が難しいと言われている「電磁鋼板」、弊社はこの魔法の鉄の加工技術に更に磨きをかけ、今後も最高の製品をお客様にお届けできる様、精進してまいります。