松本ESテックの設備:プレス機械特集~Part1~

世の中にはさまざまなプレス機械が活躍しています。皆さんは「プレス機械」と聞いて、どのようなものを思い浮かべますか? 大型プレス、小型プレス、手動式、油圧式――プレス機械には、加工する素材や用途に応じて異なる特徴があります。
本記事では、「プレス機械」とは何か、どのような構造をしているのかを、プレス機械の分類に基づいて詳しくご紹介します。次回のコラムではプレス機械の細かい基本構造、そして最終回では松本ESテックに設置された16基のプレス機械の特徴や、操作担当者の声をお届けする予定です。
「プレス加工」とは

プレス機械のお話をする前に、「プレス加工」とは何かをお伝えします。「プレス加工」とは、金属の板(板金)や材料に力を加え、形を変える加工方法のことです。主に「押す」「曲げる」「切る」といった動作を、プレス機械を使って行います。
分類 | 加工の種類 | 特徴 | 代表的な製品例 |
せん断加工 | 打ち抜き | 金属をパンチでくり抜く | 金属プレート、電子部品 |
シャーリング | 直線的に切断する | 金属板、パネル | |
トリミング | 端の不要な部分を切り取る | 車のパネル部品 | |
曲げ加工 | V曲げ | 一定の角度に曲げる | 家電フレーム、棚 |
U曲げ | U字型に曲げる | パイプ、ブラケット | |
Z曲げ | Z字型に折り曲げる | 電子機器のブラケット | |
絞り加工 | 浅絞り | 金属を引き伸ばし、浅い形状にする | 食品缶、皿 |
深絞り | 深い形状を作る | アルミ缶、鍋、洗面器 | |
圧縮加工 | コイニング | 板の表面に模様や文字をつける | 硬貨、メダル |
へミング | 板の端を折り返す | 車のドア、家電カバー | |
鍛造加工 | 冷間鍛造 | 室温で強い圧力をかける | ボルト、ナット |
温間・熱間鍛造 | 高温で金属を叩く | クランクシャフト、工具 | |
特殊加工 | ハイドロフォーミング | 液圧を利用して成形 | 自動車のフレーム |
スピニング | 回転させながら加工 | フライパン、ランプシェード |
このように、プレス加工にはさまざまな種類があり、目的に応じて適切な方法が選ばれます。
プレス機械の定義
「プレス機械」とは、金属や樹脂などの材料に強い圧力を加え、機械に装着した金型(材料を加工するための型)の形状に沿って「成形」「切断」「穴あけ」などの加工を行うための機械です。
ただし、労働安全衛生規則第147条で特別な規制の対象となる機械(紙製品用の型つけ機、鋳造プレス、ブルドーザー、衣服プレス、梱包プレスなど)は、一般的なプレス機械には含まれません。
「プレス機械」は、ものづくりの現場に欠かせない存在であり、自動車、家電、精密機器など、幅広い分野で製品の加工に活用されています。
プレス機械の種類と特徴~駆動動力~
「プレス機械」はさまざまな要素が組み合わさって構成されているため、その分類方法は多岐にわたります。本章では、「駆動動力」に着目し、「プレス機械」を分類して解説します。
メカニカルプレス_量産に適した高速プレス機(Mechanical Press)
メカニカルプレスとは、モータでフライホイール(弾み車)を回転させ、その回転運動を上下する直線的な動きに変換し、スライド部品(上下運動する部品)に伝え一定の速度でプレス加工を行う機械です。このスライド部品が上下運動することで、素材のプレス加工が可能になります。
このタイプのプレス機械は、高速で連続運転が可能なため、自動車のボディ部品や家電製品の部品など、大量生産が求められる製品の加工に適しています。また、機構がシンプルで安定した動作を実現できるため、精度の高いプレス加工が可能です。
【フライホイール】慣性の法則(外から力を加えなければ動いているものは動き続け、止まっているものは止まり続けるという法則)を利用し、回転運動のムラを抑える部品。加速した自転車はペダルをこがなくてもしばらく進むのは慣性の法則によるものです。

液圧プレス – 強い圧力で複雑な形状を加工(Hydraulic Press)

液圧プレスは、油圧(又は水圧)シリンダーを利用して加圧することで、柔軟に圧力を調整しながらプレス加工ができる機械です。ストロークの長さや圧力を細かくコントロールできるため、深絞り加工や厚みのある材料の成形に適しています。例えば、航空機の部品やステンレス製のシンク、鍋など、複雑な形状の製品を加工する際に活用されます。圧力を一定に保ちながら長時間加圧できる点も特徴で、金属の塑性加工(そせいかこう)において重要な役割を果たしています。
【塑性加工(そせいかこう)】金属や樹脂などの材料に外力を加えて変形させ、そのままの形状を保持させる加工方法です。材料の体積は変わらず、加えた力を除いても元に戻らない(弾性変形しない)という特徴があります。
メカニカルプレスを更に深堀します~スライド駆動機構~

一般的に使用されている「プレス機械」はメカニカルプレスです。本章ではメカニカルプレスを加圧部のスライド(上下運動する上側)駆動機構(仕組み)の違いから分類し解説します。モータの回転運動を直線運動に変換するスライド駆動機構は、「プレス機械」の分類や特徴を確認できる重要な構成要素です。
クランク機構

メカニカルプレスの中で最も一般的な仕組みです。クランクシャフト(車のエンジンのような回転軸)でスライドを上下させるシンプルな構造で、耐久性が高く打ち抜き加工、曲げ、絞りなど様々な加工に対応が可能です。釣りのリールはクランク機構を応用した仕組みで、ハンドルの回転運動が糸の直線上下運動に変換されています。
【クランク機構の身近な使用例】蒸気機関車、ワイパーなど
リンク機構
スライド駆動機構に、複数の部品が関節により接合されているリンク機構を加えて、スライドの動きを最適化したプレスで、下死点(スライドが最も下がる位置)までは低速でゆっくり押し込み、上昇時には高速で動きます。成形性、金型寿命の向上が期待できます。
【リンク機構使用例】ショベルカーのアーム、航空機の車輪格納、扇風機の首振りなど
ナックル機構
クランクによって回転運動を上下往復運動に変換し、更にリンク機構を加えてスライドの動きを最適化したプレスです。スライドの動きは下死点付近で最も低速となるため、大きな力で加圧することができます。コイニング加圧(貨幣印字)、材料を押しつぶす圧縮加工などに使われています。
サーボプレス機構

サーボプレス機構は、サーボモーターを搭載し、コンピューターで加圧力やストロークの動きを自由に細かく制御できるプレス機械です。動作の速度や加圧タイミングなどを細かく設定できるため、精密な加工が求められる電子部品や医療機器の製造に適しています。また、エネルギー効率が高く、動作音が静かであるため、作業環境の改善にも貢献します。近年では、自動車の高強度鋼板の加工にも活用されるなど、その用途は広がり続けています。
【サーボモーター】指示通りの動きを実現するために作られたモータで、その構成は指示する側が制御できる状態に作られているのが特徴です。
メカニカルプレスを更に深堀します~フレームの構造~
プレス機械のフレームは、機械全体の剛性や加工精度に大きく関わる重要な構造要素です。特に、大型のプレス機械では加工時に加わる「力」に耐えられるだけの強度と精度が求められます。本章では、代表的なフレームの種類とその特徴について詳しく解説します。
汎用性が高く使いやすいC型フレーム

横から見るとアルファベットの「C」の文字のようになっているプレス機械です。前面、側面が開放されたフレーム構造のため、材料のセットや取り出しが容易で作業性に優れています。小型・中型のプレス機械に多く採用されており、コンパクトな設計です。左右非対称な構造のため、高圧力をかけると変形しやすく加工精度に影響が出る場合もあります。単発プレス加工、薄板の抜き加工、軽量金属の曲げ加工などに適したフレーム構造です。
高精度な加工に剛性が高い門型フレーム

正面から見ると門の形をしており、4隅を支える設計で、H型フレームともいわれています。大型プレス機械に多く採用されており、その剛性な構造から高圧加工にも対応が可能です。設置スペースが必要でコスト高になりますが、安定した精度の高い加工が実現できます。電磁鋼板の打ち抜き加工、大型金属の曲げ加工、モーターコア加工等に適したフレーム構造です。
メカニカルプレスを更に深堀します~動きの特性~
プレス機械を選定する際には、加工対象や生産量など、その条件に適した機種を選ぶことも重要です。本章では、プレス機械の動きの特性に注目し、それぞれに適した用途を紹介します。
単発プレス機械(ワンパンチプレス)

単発プレスは1回のストロークで1つの加工を行うプレス機械です。加工ごとに加工材料をセットし、加工が終るとそのたびに取り出します。連続、自動加工はできませんが、プレス機械本体や使用する金型も低価格のため初期費用を抑えることができます。多品種小ロット生産に向いており、試作やテスト加工等でも利用されています。
高速自動プレス機械(連続プレス機械、順送プレス(プログレッシブプレス))

1分間に数百回~数千回ものストロークを繰り返すことができるプレス機械です。コイル材を連続供給できる順送方式が主流で(プログレッシブプレス)、高速で連続した加工が可能なため、大量生産に向いています。フレームは剛性が高い門型フレーム構造が主流となるため、初期投資が必要です。精密金属部品、モーターコア、薄板金属を使用した部品などの大量生産に向いています。
まとめ
いかがでしたか? このコラムで紹介した以外にも、プレス機械にはさまざまな分類があり、それぞれの特徴が複雑に絡み合っています。使用者は「加工素材」「加圧方法」「速度」「価格」「強度」などの要素を考慮しながら、最適なプレス機械を選定します。ものづくりの現場では、最適なプレス機械を選ぶことが、高精度で効率的な加工を実現する鍵となります。次回のコラムでは、「プレス機械の基本構造」について詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。