仕事と家庭の両立支援~介護休業について~

介護する人、される人

家庭内で育児や介護などを担う必要性が高まる様々な場面で、「仕事と家庭の両立」が難しいと判断した場合、自分の仕事の継続をあきらめざるを得ない状況が発生する場合があります。日本の生産年齢人口が減少し続ける中、これらの問題を少しでも解決するため、「育児」や「介護」に関する法律の改定が繰り返されています。「育児」は子どもの成長に伴い先の見通しが立ちますが、家族の「介護」が必要になった場合、どのように対処すればよいかは、これから多くの人々が直面する課題でもあります。この記事では、「家族を介護することになった場合」の「仕事と家庭の両立支援」について、「介護休業」に関する法制度の歴史や仕組み等を分かりやすくお伝えします。

時代背景からみた「仕事と家庭の両立」問題

家族みんなで支える介護

一般的な定年(一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度)の年齢は60歳であり、それ以降は定年後の再雇用制度などで65歳まで仕事を続けることが当たり前の世の中になりました。令和3年の内閣府の統計によると、日本の総人口は1億2,550万人、そのうち65歳以上の人口は3,621万人で、総人口に占める高齢者の割合は28.9%となっています。今後も令和24年まで高齢者の人口は増え続け、令和18年には国民の3人に1人が65歳以上になると予測されています。

一方で出生数は右肩下がりとなり、40年後の生産年齢人口(15歳~64歳)は現在の約6割程度になると言われています。以前は複数世代で暮らしていた家族も、現代は核家族化が進み夫婦と子供だけの家庭が増えました。その結果、それぞれの家庭内で介護の負担を抱え、生産年齢と呼ばれる人々が家族の介護を担う可能性が高まっています。

このような時代背景から「仕事と家庭の両立」を支える仕組みはこれからますます重要な施策となります。

「育児・介護休業法~介護休業~」

ライフワークバランス・仕事と家庭の両立

この章では、働きながら介護を担う家族などが利用することができる、「介護休業」が制定されている「育児・介護休業法」について、その歴史と概要をお伝えします。

介護休業法改定の歴史

介護でお茶を提供する人

日本の高齢化が進み、介護を必要とする高齢者が増え続ける一方で、家庭内では、女性の社会進出や核家族化が進み、家族による介護の負担は増加し続けています。1995年には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(通称:育児・介護休業法、介護部分は1999年から施行)が制定され、仕事と家庭の両立を図るべく、「育児」や「介護」での休業が取得しやすくなるための支援制度がスタートしました。以降、「介護保険法」同様、その時代に即した内容に改定が繰り返されています。2002年の改定では「介護休業」の取得条件や労働時間の制限などの整備が進み、労働者が介護休業をより利用しやすくするための環境が整えられました。2005年には介護休業回数の制限が緩和され、2017年の改定では介護休業の取得可能期間中介護休業を3回まで分割し、通算93日まで取得できるほか、有期雇用労働者の取得要件が緩和されました。

「介護休業」の詳細

介護・療養生活

「介護休業」は、労働者が要介護状態にある対象家族の介護を行うだけでなく、「仕事と家庭の両立」ができる体制を整えるための休業です。介護休業制度の具体的な内容を確認しましょう。

介護休業取得対象者は、要介護状態対象家族を介護する労働者(日々雇用を除く)

※有期雇用労働者も一定の要件を満たせば利用可能です。(取得予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し更新されない事が明らかでない事)なお、会社の労使協定等により一定の労働者を対象外としている場合があります。詳細は所属する事業所にご確認ください。

  • 要介護状態とは負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により2週間以上にわたり常時介護(歩行、排泄、食事等の日常生活に必要な便宜を供与すること)を必要とする状態をさします。
  • 対象家族は「配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」「父母(養父母を含む)」「子(養子を含む)」「配偶者の父母(養父母を含む)」「祖父母」「兄弟姉妹」「孫」。
  • 利用期間と回数は対象家族1人につき3回まで、通算93日(土日を含む)まで取得が可能です。

事業所内での手続き方法

休業開始予定日の2週間前までに書面等により事業主に申請します。休業終了予定日繰り下げ変更は、休業終了予定日の2週間前までに申請することで、1回の休業申請につき1度限り通算93日間を超えない範囲で繰り下げ変更が可能です。

介護休業取得に関する詳細は所属する事業所にご確認下さい。

【出典】厚生労働省HP:介護休業について|介護休業制度

介護休業中の経済的な支援

サポート

介護休業中の賃金について会社には法的な支払いの義務はなく、企業からの給与補償はないのが一般的です。雇用保険の被保険者の場合、介護休業を取得した労働者が一定の条件を満たせば、雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます。具体的な要件と内容を確認していきましょう。

介護休業給付の支給対象となる介護休業は?

雇用保険被保険者証の写真

「介護休業給付金」を受給するには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 「育児・介護休業法」で定められた介護休業の要件を満たし、介護休業を取得した雇用保険の被保険者が、その期間の初日及び末日とする日を明らかにして事業主に申請し、これに基づき被保険者が実際に取得した休業であること。
  • 介護休業を開始した日の前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12か月(12か月を通算するための1か月のカウント方法は後述※)以上あることが必要。(介護休業を開始した日の前2年間に被保険者期間が12か月ない場合であっても、当該期間中に本人の疾病等がある場合は、受給要件が緩和され、受給要件を満たす場合もあります。)

※雇用保険の被保険者期間を通算するための1か月のカウント方法は、介護休業開始日の前日から1か月ごとに区切った期間に賃金支払いの基礎となった日数が、11日以上ある月。又は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある月。

  • 介護休業期間中に賃金が支払われている場合、その賃金が一定の基準を超えていないこと。

なお、介護休業開始時点で、有期雇用労働者(契約期間の定めのある方、以下同じ。)の場合は、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでないことが必要です。

「介護休業給付金」の支給額について

老人に手を差し伸べる温かい手

1支給単位期間(介護休業を開始した日から、翌月の介護休業を開始した日の前日までの通常1ヶ月間)の間で、賃金の支払いがない場合の支給額は、休業開始前6ヶ月間の総支給額に基づいて計算された「休業開始時賃金日額」に「支給対象休業日数」と「支給率の67%」を乗じた額です。1支給単位期間中に賃金の支払いが一部ある場合は、その額が調整され支給額が減額されます。賃金の支払いが一定の金額を上回った場合は、「介護休業給付金」の支給対象外となる場合があります。具体的な計算方法とその例を以下に示します。

  • 休業開始時賃金日額は、介護休業を開始する直前6ヶ月間の総支給額(保険料等が控除される前の額で賞与は除きます)を基に計算します。休業開始時賃金日額は休業開始前6ヶ月間の総支給額を180日で割った1日あたりの賃金額です。
  • 支給日数は、介護休業期間中の実際に休業した日数です。これは、介護休業を取得した期間のうち、休業した日数を指します。

賃金の支払いがない場合の計算具体例

休業開始前6ヶ月間の総支給額が180万円の場合:休業開始時賃金日額 = 180万円 ÷ 180日 = 1万円

支給日数の設定:介護休業期間が30日間で、その全ての日が休業日とします。

支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%

支給額 = 1万円 × 30日 × 67% = 20万1000円 になります。

賃金の支払いがある場合の調整

介護休業期間中に一部賃金の支払いがある場合、その支払額に応じて支給額が調整されます。以下はその計算方法です。

  • 支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%以下の場合、調整はありません。
  • 支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%超~80%未満の場合、支給額=休業開始時賃金額×支給日数×80%相当額と賃金の差額が支給されます。
  • 支払われた賃金が休業開始時賃金月額の80%以上の場合、支給されません。

なお、休業開始時賃金月額には上限と下限があります。毎年見直しがあり改訂される場合もありますが、令和5年8月現在の上限額は509,400円、下限額は82,380円です。

※ 1支給単位期間の支給日数は、原則として、30日(ただし、介護休業終了日を含む支給単位期間については、その介護休業終了日までの期間)です。

介護休業給付金の支給額は、雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書をハローワークに提出後、決定されます。具体的な支給額については、個々の状況に応じて異なるため、詳細はハローワークでご確認ください。

【出典】厚生労働省HP:Q&A~介護休業給付~について紹介しています。

まとめ

お休み リラックス 緑豊かな草

いかがでしたか。「仕事と家庭の両立」という観点から「育児休業」と「介護休業」について2回に渡りお伝えしました。育児休業に関しては、それぞれの事情に合わせてフレキシブルに取得できる「出生時育児休業の制定」などもあり、取得へのハードルは下がりつつあります。一方で、令和4年度雇用均等基本調査(厚生労働省)によると、「介護休業」を取得した人がいた事業所の割合は1.4%と、「介護休業」取得へのハードルは依然として高いことがうかがえます。「誰に相談すれば良いかわからない」「相談しにくい」「前例がない」などの理由から、一人で悩んだりしていませんか。「仕事と家庭の両立支援」制度を利用することで、仕事も家庭もあきらめず、解決できる方法があるかもしれません。ぜひ事業所の相談窓口や信頼できる上司、人事労務担当者などに相談し制度の利用を検討しましょう。

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