もっと暮らしを快適に!モータ誕生の歴史とそのエピソード~前編~

電磁鋼板で作られるモーター内蔵製品

私たちの回りには自動で動くものがあふれています。冷蔵庫、エアコン、電子レンジ、掃除機、扇風機、空気清浄機…自動ドアや電気自動車など、まだまだ思い当たるものがたくさんありますね。これらを含め自動で動く多くのものには「モータ」が組み込まれており、私たちはモータの恩恵を受けることで便利で豊かな生活を送ることができます。この記事では弊社の主力製品、「モーターコア」が活躍する場でもある「モータ」について、誕生までの歴史やそれに携わった研究者たちなどに触れながら、「モータ」について2回に渡りお伝えします。

モータについて探ってみましょう

「モータ」は私たちの身近な製品に使用されていますが、実際にその製品に組み込まれていたり、モータが動いていたりしいてる様子を見る機会は少なく、モータで動いていることすら知らないまま使用しているものも数多くあります。この章ではそんな縁の下の力持ち、「モータ」誕生の歴史を紐解いてみます。

そもそもモータとは?

モーター

電気のエネルギーやそれ以外の形式のエネルギー(風力、水力、火力など)を機械的な動力に変換する装置、またはそれらの機器を総称して原動機と呼んでいます。モータは、原動機の中でも(特に日本では)「電気のエネルギーを動力に変換する」装置の呼称であり、「電動機(electric motor)」を示すことが一般的です。モータには回転軸を持ち、電気と磁気の相互作用で回転運動をアウトプットするものと、回転軸を持たず、直線的な運動を行うリニアモータがあります。(一般的には回転するものをモータと呼称することが多いようです)

モータの歴史

この章ではモータの歴史と、モータの開発、発明に関係する主な発明家たちの偉業を探ります。学生時代に受けた授業の総復習のようですが、改めて敬服するような事柄ばかりです。

動物の力から原動機への移行

馬が荷物を運ぶ様子

人は自分たちの力では難しい作業を道具などを用いて、少しでも楽になるよう工夫しながら生活してきました。その一つとして、自然の力やほかの動物の力を使い、馬車や牛車、水車、風車などを動かし、大きな力を作ることで物を動かしたり、エネルギーを得たりという工夫を行ってきました。自然や動物の力を利用する工夫は、現代でも数多く存在しています。「相手次第の他の力に頼る」ということは不安定な要素もあり、人はやがてその不安定な力から、安定した力で「より快適に」「より楽に」生活できることを望みます。電気とモータの発見、開発はまさにその「見えない安定した力」で暮らしをより快適にするための、手段の一つです。

「モータ」発見、開発の歴史は18世紀の産業革命時代に遡ります。スコットランドの発明家であるジェームズ・ワット(James Watt)は1769年に、熱エネルギーを動力に変換する原動機の蒸気機関を改良し、燃費をよくすることに成功しました。動力は「馬」から「蒸気機関」へと移行し、綿織物の技術革新や製鉄業の成長、蒸気船や鉄道など交通機関の革新にも影響を及ぼします。この改良が、工業用モーターの基礎を築いたといわれています。のちに彼の栄誉を称え、消費される電気エネルギーの大小を示す単位は、彼の名前に由来する「W(ワット)」となり、現代においても日常的に使用しています。

熱エネルギーから電気エネルギーへ

蒸気機関車

1821年イギリスの物理学者であるマイケル・ファラデー(Michael Faraday)が「磁石の近くで導線を動かすと電流が発生する」ことを発見し、実験を重ね、発電機の基礎となる電気エネルギーを機械的な運動に変換する概念、「電磁誘導の法則」を1831年に確立します。1827年ハンガリーのイェドリク・アーニョシュ(Jedlik Ányos István)は電磁作用で回転する装置の実験を開始、翌年には直流モーターの三代要素である、固定子、電機子、整流子を備えた直流電動機の実験を世界で初めて成功させました。同じころ、イギリスの物理学者ウィリアム・スタージャン(William Sturgeon)が電磁石と初の実用的な電動機を開発し、電気エネルギーによる動力利用が加速します。その後フランスの技術者ヒポライト・ピクシー(Hippolyte Pixii)は交流発電機の原型となる手回しの発電機(ダイナモ)を発明します。

固定子、電機子、整流子と
分解されたモータの様子

前章で触れた「直流モーターの三大要素」について簡単にご説明します。直流モーターは「ステータ(固定子)」と「ロータ(回転子)」から成り、ステータは界磁や継鉄、ロータは電機子や整流子などによって構成されています。

【界磁】磁界を発生させるロータ(回転子)またはステータ(固定子)を指します。(直流ではステータを指します)

【継鉄】ヨークとも呼ばれており、外の枠のような存在ですが、磁束を効率よく必要な場所に運ぶための回路の役割も担っています。

【電機子】電気エネルギーと運動エネルギーを交換する場所で、直流式ではロータ(回転子)が電機子の機能を持っています。

【整流子】180度ごとに電流の向きを変え回転を一定の方向へ保つための部品です。

電流戦争の勃発

白熱球

アメリカでも様々な技術者や研究者により研究、開発が進みます。1834年発明家のトーマス・ダベンポート(Thomas Davenport)はバッテリー駆動の電気モーターを制作します。費用面等が実用的ではなかったことなどもあり、当時の認知度は低かったようですが、このモータが直流式モーターの始まりと言われています。一方、現代においても認知度は高く、「名前だけは知っている」方が多いであろう、発明家であり起業家でもあるトーマス・アルバ・エジソン(Thomas Alva Edison)は、白熱電球を開発し、電灯照明用直流送電システムを整備すべく、1878年にエジソン電気照明会社(Edison Electric Light Co.)を立ち上げます。この会社はのちのアメリカの総合電機メーカーである「ゼネラル・エレクトリック(GE)」の前身、Edison General Electric Company(エジソン・ゼネラル・エレクトリック)です。一方、エジソンの下で働いていたニコラ・テスラ(Nikola Tesla)は考え方の違いから独立し、テスラ電灯製造会社(Tesla Electric Light Company)を設立、交流送電システムを推進します。のちに技術者であり事業家でもあるジョージ・ウェスティングハウス(George Westinghouse)と連携し、交流送電システムを促進、「電流戦争」と呼ばれる直流、交流送電の市場争いが始まります。この「電流戦争」でエジソンは交流送電システムのネガティブなイメージを発信しましたが、安価で配電が容易な交流送電システムが優位となり、1893年のシカゴ万博博覧会やナイアガラの滝の電気設備に交流送電システムが採用されることになり、テスラの勝利に終わりました。

電動機(モータ)原理の発見

修理しているダイナモ

ベルギーの発明家、ゼノブ・テオフィル・グラム(Zénobe Théophile Gramme)は1873年ウィーン産業博覧会で展示したダイナモ(発電機)の出力線に、助手が別のダイナモの出力線を接続してしまう、というアクシデントが発生し、これによりダイナモが回転し始めるという現象が起きました。偶然起きたこの出来事が現在使用されている実用的なモータの始まりではないかと言われています。

実用化で求められること

流量計

ニコラ・テスラが発明した交流誘導モータによりモータは実用化が進み、様々な用途で使用されるようになります。それに比例してモータへの要求事項も多様化していきます。この章ではモータへの一般的な要求事項と、その要求のひとつ、「効率性」に対応すべく改良されたモータの心臓部品ともいえる「モーターコア」が、「現在のモ」ーターコア」に近づいた過程をお伝えします。いよいよ「電磁鋼板(ケイ素鋼板)」の登場です。

モータが求められていること

製品に組み込まれているモータ

モータは単独で使用することがないため(基本は製品に組み込まれているものであるため)時代の流れや産業の発展、使用用途により要求事項がそれぞれ異なります。現代の産業界における一般的な要求事項を以下にお伝えします。

【効率性】

モータはエネルギーを効率的に変換し、できるだけ少ない損失で仕事を行う必要があります。高い効率性は、エネルギーコストの削減やバッテリー駆動デバイスの寿命を延ばすのに役立ちます。

【小型化】

ポータブルデバイスや場所の制約がある場合、モータは小型でコンパクトである必要があります。

【低騒音】

モータの騒音は問題とされることが多いため、静かな動作が求められます。特に家庭用アプリケーションやオフィス環境では、騒音を最小限に抑える必要があります。

【高トルク】

モータは必要なトルク(回転力)を提供できるように設計されている必要があります。これは、負荷を回転させたり、物体を持ち上げたりする際に重要です。

【速度制御】 モータは必要に応じて速度を制御できる必要があります。特定のアプリケーションでは、一定の速度で回転する必要がある一方、他のアプリケーションでは可変速度が必要です。

【信頼性】

モータは長寿命で信頼性が高い必要があります。特に産業用途や自動車などの重要なアプリケーションでは、故障が許容されない場面も多くあります。

【環境への対応】

一部のアプリケーションでは、耐久性や防水性が必要です。例えば、屋外での使用や湿度の高い環境での動作が求められます。

【制御性】

モータは、制御信号に応答し、必要な動作を正確に実行できる必要があります。これは、位置制御、速度制御、トルク制御などを含みます。

素材の改良

モータが誕生し発明された時期でもある1900年ごろまでは、モータのロータ(回転子)、ステータ(固定子)には一般的な鉄や鋼が用いられていました。デンマークの物理・化学者ハンス・クリスティアン・エルステッド、イギリスの冶金学者ロバート・アボット・ハドフィールド、科学者マイケル・ファラデーなど、複数の研究者により、鉄に特殊な処理を施した「電磁鋼板(ケイ素鋼板)」が誕生し、この「電磁鋼板」をモータの心臓部分、「モーターコア」に使用することで、エネルギー効率は向上し、モータはさらに進化を遂げます。

モーターコア製造方法の変更

電磁鋼板切り板

「電磁鋼板」誕生前の「モーターコア」は鉄や鋼などの磁性素材(簡単に言うと磁石にくっつく素材です)を必要な形状に切り出し、切削や穴をあけるなどの加工が施され、モータに組み込まれていました。板状である「電磁鋼板」誕生により、モーターコアは鉄の塊を切り出す製造方法から、「電磁鋼板」を複数枚数を重ねて製造する「積層コア」へと移行します。

「積層コア」について

「電磁鋼板」が誕生し、モーターコアは「電磁鋼板」を打ち抜き複数枚数を重ねて製造する「積層コア」が主流となりました。ケイ素などを含み、表面に絶縁処理加工を施した「電磁鋼板」を積層することで、電気エネルギーから磁気エネルギーへの変換時に発生する鉄損(エネルギー損失)を抑えることができ、エネルギー効率が向上します。(ちなみにこの「積層モーターコア」は松本ESテック株式会社の主力製品です。)「電磁鋼板」はモータ効率化に大きく貢献しています。

電磁鋼板とは?製造メーカーが歴史や技術について詳しく解説します

まとめ

いかがでしたか。この記事ではモータ誕生までの歴史と偉業を成し遂げた研究者たち、それにまつわるエピソードなどをお伝えしました。多くの研究者や発明家の努力の結晶が、モータ実用化に大きく貢献していることがお判りいただけたでしょうか。こののちモータは誕生、発明、実用化を経て、要求事項を満たすための開発、発展期へと移行します。後編ではモータを構成する主要なパーツとその進化についてお伝えします。

モータ誕生の歴史とそのエピソード~後編~