ケイ素鋼板と電磁鋼板は同じもの?
検索サイトなどで「電磁鋼板」と検索すると「電磁鋼板(ケイ素鋼板)」と表現されている事があります。弊社内でも基本はその様にお伝えしていますが、実際はどうなのでしょう。この記事ではケイ素鋼板と電磁鋼板が同じものなのか、違いがあるのかを独自に調べた結果と、電磁鋼板には欠かせない元素である「ケイ素」についてご紹介いたします。
ケイ素鋼板と電磁鋼板
では早速「ケイ素鋼板」と「電磁鋼板」について、成分や製造方法、それ以外で違いがあるのか、そしてその名前の由来について確認していきましょう。
成分と製造工程
ケイ素鋼板は(Silicon Steel Sheet)、「珪素鋼板」と同義です。主成分は鉄(Fe)とケイ素(シリコン=Si)の合金で、鉄は低炭素(Low Carbon Steel)が良いとされています。ケイ素(Si)の添加量は通常1.0パーセントから4.0パーセントの範囲、炭素(C)は0.02パーセント以下と言われています。一方、電磁鋼板(Silicon Steel Sheet又はElectrical Steel Sheet)も一般的には、ケイ素鋼板と同様、主成分は鉄(Fe)とケイ素(シリコン=Si)の合金で、低炭素が良いとされています。どちらの鋼板も使用用途によって製造の工程でそれ以外の成分が添加されますが、その具体的な成分や添加量、製造方法等は各メーカーにより異なり、社外秘扱いとなっているようです。そして、今回確認した結果、「ケイ素鋼板の製造工程」は過去の記事でご紹介した「電磁鋼板の製造工程」と同じであることが分かりました。
ケイ素鋼板と電磁鋼板
ケイ素鋼板が製造され始めた当初は、素材である「ケイ素」を含んだ鋼板という事で「ケイ素鋼板(Silicon Steel)」と呼ばれることが多かったようです。弊社でも過去は「ケイ素鋼板」と呼んでおり、社名も「松本シリコンスチール工業」でした。その後「ケイ素鋼板」の特性である「電気と磁気の力を有効的に活用することができる優れた素材」という意味を文字化し「電磁鋼板(Silicon Steel Sheet又はElectrical Steel Sheet)」と称されることが多くなったのではないかと推測します。平成17年、弊社社名も松本シリコンスチール工業から松本ESテック(ES=Electrical Steel、テック=テクニカル、テクノロジー、tech(技術))へと変更されています。昨今では「電磁鋼板(Electrical Steel Sheet)」の英語表記が「磁気」を意味する「Magnetic Steel Sheet」とされている事もあるようです。
ケイ素とは
ここからは鉄を付加価値の高い「電磁鋼板(ケイ素鋼板)」に変えてしまう主な元素である「ケイ素」について、その存在や性質、特徴、様々な用途についてご紹介いたします。想像以上に私たちにとって身近な元素であることがお分かりいただけます。
ケイ素の存在
元素記号Siで示されるケイ素(Silicon)の単体は、自然界の中で天然には存在していません。ケイ素は地球の表層部の約5キロ~40キロに及ぶ、といわれる地殻を構成する元素のうち、酸素(O₂)に続き2番目に多い元素ですが、(酸素は46.60パーセント、ケイ素は27.72パーセント)単体で存在することが難しいため、他の元素結びつき化合物として存在しています。
ケイ素はどこある?
地球の地下で形成された溶けた岩石、鉱物、ガスなどからなるマグマにはケイ素が含まれており、マグマは火山から噴出したり、地表に達したりすることで冷えて固まります。固まったマグマは溶岩と呼ばれ、ケイ素の多くは酸素と結合して二酸化ケイ素(シリカ=SiO₂)として、それ以外は様々な金属と結合して、水に溶けないケイ酸塩の形で存在します。ケイ素単体が必要な場合は二酸化ケイ素(SiO₂)を還元し、人工的に作られています。(SiO₂+2C/二酸化ケイ素+炭素⇒Si+2CO/ケイ素+一酸化炭素)
植物に含まれているケイ素は、土壌に含まれるケイ素成分を水と共に植物が吸収する事で補われ、茎や筋、幹、種、実を強くし、保護するために活用されています。ケイ素を積極的に吸収する穀物類などはその成分を多く含んでいると言われています。
鉱物に含まれるケイ素
ケイ素を含む鉱物には二酸化ケイ素から構成される「石英」「水晶」のほか、ケイ素と他の金属元素が酸化したケイ酸塩鉱物の「長石類」「沸石類」「雲母類」などがあります。美しい輝きを放つエメラルドBe₃Al₂Si₆O₁₈(Be=ベリリウム)、オパールSiO₂・nH₂O、トパーズF-type/Al₂SiO₄F₂・OH-type/Al₂SiO₄(OH)₂、翡翠NaAlSi₂O₆、ガーネットCa₃Fe₂Si₃O₁₂などの宝石類はケイ素(シリコン=Si)を含む鉱物です。
生物に含まれるケイ素
ケイ素は、稲などの、特に精白していない穀物類、イモ類や海藻類などに多く含まれ、食物繊維の大部分を構成しているといわれています。私たち人間の体にも、ケイ素は生まれた時から存在しており、爪、髪、歯、皮膚、内臓、血管などの体内いたるところでケイ素はその役割を果たし、私たちは日々の食事からそれらを補っています。
身の回りにあるケイ素製品
ガラスやグラスウール(ガラス繊維でできた綿状の素材断熱材や吸音材として使用)、シリカゲル(乾燥剤)、ワックス、ホースや塗料や絶縁材など、ケイ素が含まれる製品は数多くあります。炭化したケイ素は、耐火材や抵抗体として使われるほか、高い硬度を持つために研磨剤として使用される事もあります。その他、地殻中の多くのアルミニウムが存在する形とされている「アルミノケイ酸塩=xM₂O・yAL₂O₃・zSiO₂・nH₂O」 と呼ばれるケイ素化合物が粘土に含まれることで、陶器やセメント・煉瓦などの原料に、「アルミノケイ酸塩化合物」はセラミックスや電気絶縁体などの材料の主成分となるほか、カルシウム化合物を除去する働きから、水の精製にも使用されています。更に化粧品分野や医薬品分野、半導体分野などケイ素は幅広く利用され身近なところで活躍しています。
まとめ
いかがでしたか。この記事では「ケイ素鋼板」と「電磁鋼板」について、そして鋼板に付加価値をもたらす「ケイ素」についてお伝えしました。調べた限りでは、「ケイ素鋼板」は鋼板に影響を与える元素である「ケイ素」の鋼板、「電磁鋼板」はケイ素によって高まったその特性である電気と磁気を示す「電磁」の鋼板であり、主な成分も、製造工程も同じ「シリコンスチール/ケイ素鋼板/電磁鋼板」です。電磁鋼板の製造開始から現代まで、その時に一番伝えたい内容が文字化されネーミングとなったのではないでしょうか。余談ですが「乾燥剤」でおなじみの「シリカゲル(silica gel)」は「ケイ素」の酸化物であるシリカを脱水、乾燥させ製造したものです。ケイ素酸化物(silica)のゲル(gel)で「シリカゲル」という名前と、シリカゲルの「乾燥」させる特性を示す「乾燥剤」という2つの名前がありますがどちらも同じ製品です。この様に、同じ物質でも構成する成分を名前とするものと、その成分によって得た特性を名前とするものがあり、「ケイ素鋼板」も「電磁鋼板」も同様であると解釈しています。