電磁鋼板とは?製造メーカーが歴史や技術について詳しく解説します

スリット後の電磁鋼帯

「電磁鋼板(でんじこうはん)」って知っていますか?日常の暮らしの中では耳にしないこの電磁鋼板、実は私たちのとても身近な所で広く使われています。この記事では、電磁鋼板を知らない方でも分かりやすく、その基本的な情報から、発見と歴史、身近な製品、そしてその将来性などを探っていきます。一緒に電磁鋼板の世界を探検してみましょう!

電磁鋼板とは何か?

電磁鋼板は、特殊な鋼の一種であり、その名前の通り電磁気の力を利用して様々な目的に使用される素材です。通常の鉄との大きな違いは、微量の合金元素の添加です。この合金元素の添加により、電磁鋼板は優れた磁気特性を持つようになります。

合金元素、その成分とは?

電磁鋼板は鉄と微量の合金元素で組成されています。この合金元素、具体的には、シリコン/ケイ素(Silicon)、アルミニウム(Aluminum)、マンガン(Manganese)などが一般的です。これらの合金元素は、鉄と結合して電磁鋼板を形成します。シリコン/ケイ素は、電磁鋼板に添加される最も一般的な合金元素の一つで、磁気特性を向上させ、様々な損失を低減する役割を果たします。アルミニウムは、電磁鋼板の腐食耐性や塑性改善を、マンガンは電磁鋼板の強度と硬度を向上させる役割があります。電磁鋼板の性能は、使用される合金元素やその添加量、割合によって異なります。合金元素の選択や添加量は、電磁鋼板の製造者や製品の要件に応じて調整されます。

電磁鋼板の発見と歴史

電磁鋼板切り板

磁石と鉄の関係ははるか昔から科学者たちによって研究されていました。19世紀から20世紀初頭にかけて、デンマークの物理・化学者ハンス・クリスティアン・エルステッド、イギリスの冶金学者ロバート・アボット・ハドフィールド、科学者マイケル・ファラデーなど、複数の研究者によって、その特性の究明は更に加速しました。科学者たちは、鉄に特殊な処理を施し、その特性を調べました。そしてこの特殊な処理をした素材は、通常の鉄と比べて磁気の性質がより強くなること、電気の通りがよくなることがわかりました。この特殊な素材は後に「電磁鋼板」と呼ばれるようになり、電気と磁気の相互作用を利用してさまざまな応用が可能となりました。その後、20世紀に入ると電磁鋼板はさらに進化し、様々な産業分野で重要な役割を果たすようになり、特に電力産業において広く利用され、電気エネルギーの効率的な変換を可能にしました。

電磁鋼板の発見と歴史は、電磁気学の進歩と産業の発展に密接に結びついています。発見から現代の技術に至るまで、多くの科学者や技術者たちが時間を費やして積み上げた、研究の成果が形となりました。電磁鋼板は現在、私たちの目に見えない身近なところで使用され、豊かな生活に欠かせない素材となっています。

電磁鋼板の特性

電磁鋼板は、磁気の力を効果的に利用する事が出来る素材です。ここでは電磁鋼板の主な特性、「鉄損の低減」「高い透磁率」「磁気フィールド制御」について探ってみましょう。

鉄損の低減

電磁鋼板の特性を説明する際に必ず標記がある「鉄損」とは、電気エネルギーから磁気エネルギーへの変換時に発生する損失をあらわす指標で、鉄損が小さいほど損失は小さく、省エネルギーとなります。鉄損には磁化する際に発生する損失である「ヒステリシス損」と、内部に流れる過電流によって生じる「過電流損」があります。ことばは難しいのですが、特に「過電流損」は経験している方が多いのではないかと思います。ドライヤーのコンセントやPCの充電器、携帯のバッテリー等がものすごく熱くなっている事はありませんか?これは電気回路や家電機器に流れる電流が限界を超えることによって引き起こされる現象で「過電流損」を起こしている状態です。

電磁鋼板にはこの「鉄損」を小さくする特性があり、電気や磁気の力を無駄にせずに利用することができます。

高い透磁率

2つ目の特性「高い透磁性」とは、電磁鋼板が磁界を通すことが得意な性質である事を指します。磁界とは、磁石の周りに存在する磁力の領域です。磁界には、磁束(じそく)という概念が関わってきます。磁束は、磁界の中を通る磁力の量を表すもので、磁力の密度とも考えることができます。磁束は、磁石の力が物体に及ぼす強さを表す指標として使われます。

電磁鋼板は鉄の中でも特に透磁性が高いと言われており、磁界の中の磁束を効率的に通すことができる素材です。

磁気フィールド制御

電磁鋼板は、磁気フィールドを効果的に制御することができます。磁気フィールドは、磁気の力が広がる範囲のことを指します。電磁鋼板を使うことで、磁気の力を望む方向に集めたり、必要な方向に誘導したりすることができます。

身近にある電磁鋼板製品

モーター・コアが使われている製品

電磁鋼板の電気と磁気の性質を組み合わせた驚くべき特製は、エネルギー変換と制御の分野で広く活用され、さまざまな分野で活躍しています。私たちの生活に密着した部分で使用例を確認してみましょう。

電力変圧器

電力変圧器は、電力の変換と配電に使用されます。身の回りにある例として、家庭の電源から供給される交流電力は、変圧器を通して低い電圧に変換されています。これにより、家庭内の機器や電灯が正しく動作し、安全に使用することができます。変圧器の重要な部品の製造に電磁鋼板が使用されます。

モーター

モーター

モーターは、電気エネルギーを機械的な運動エネルギーに変換する装置です。家庭で使用されている洗濯機や冷蔵庫のコンプレッサー、エアコンの室外機、PCや給湯器のファンなどにもモーターが組み込まれています。これらのモーターは、モーターの心臓となる部品、鉄芯に電磁鋼板を使用する事により、効率的な動作とエネルギーの変換が実現されます。

電磁石

電磁鋼板は、電流を通すことで磁力を発生させることができます。身の回りにある例としては、電磁石を利用したスピーカーやドアロックがあります。スピーカーでは、電磁石が音声信号を受け取り、振動を生じさせることで音を発生させます。また、ドアロックでは、電磁石を使ってドアを施錠し、電流を絶続させることで解錠する仕組みになっています。

電磁鋼板の弱点は?

開梱前の大きな母材

電磁鋼板は優れた特性を持つ素材ですが、いくつかの制約や弱点も存在します。電磁鋼板の弱い部分は一般的に「重量とコスト」「高周波特性」「電磁特性の温度依存性」「限られた可変性」と言われています。

重量とコスト

電磁鋼板は一般的に比較的重い素材です。大量に使用される場合や大型の装置においては、重量が課題となることがあります。また、製造には特殊な製造プロセスが必要であり、これによってコストがかかることもあります。

高周波特性

電磁鋼板の特性は、周波数によっても変化します。特に高周波領域では、電磁鋼板内の磁化反応が追いつかず、特性が低下することが課題となります。これにより、一部の高周波応用において場合によっては、別の素材や設計手法が必要となります。

磁気特性の温度依存性

電磁鋼板の磁気特性は温度によっても影響を受けます。高温では透磁率が低下し、磁気損失が増加する傾向があります。このため、高温環境での使用には制約があります。特定の応用においては、高温環境下での材料選択や冷却システムの設計が必要となるでしょう。

限られた可変性

電磁鋼板は、特定の磁気特性を持つように設計されていますが、一度製造された材料はその特性が固定されます。そのため、特定の応用において要求される特性と一致させることが難しい場合があります。

電磁鋼板の未来

電磁鋼板がコイル状になっている状態

電磁鋼板の研究は今も進行中であり、さまざまな改良が行われています。将来の展望としては、より軽量かつ効率的な電磁鋼板の開発が期待されています。電磁鋼板は私たちの技術や生活において、ますます重要な役割を果たしていくでしょう。電磁鋼板の未来について探ってみましょう。

高性能な素材の開発

電磁鋼板の特性を向上させるために、新たな素材の開発が進んでいます。研究者たちが、より高い透磁率や低い磁気損失を持つ合金の開発に取り組んだり、新しい製造技術や加工方法を生み出したりする事で、電磁鋼板の特性をさらに向上させることが期待されています。

高周波応用への対応

高周波領域における電磁鋼板の特性向上が求められています。高周波は、通信技術や高速データ処理など、様々な分野で重要な役割を果たしています。電磁鋼板の高周波特性の改善により、高周波応用においても効率的な電磁波の制御が可能になります。

エネルギー効率の向上

電磁鋼板の磁気特性や電気特性の改善により、エネルギー効率の向上が期待されます。例えば、トランスや発電機のコア材料としての電磁鋼板の性能向上によって、エネルギーの変換効率が更に向上し、省エネルギーシステムの実現が期待されます。

持続可能な材料への転換

環境問題の意識が高まる中、持続可能な材料の需要が増加しています。電磁鋼板の製造においても、エネルギー効率や資源の効果的な利用が求められます。将来的には、再生可能エネルギーを使用した製造プロセスやリサイクル可能な素材の開発など、持続可能性を重視した電磁鋼板の利用が進んでいくかもしれません。

新たな応用分野の開拓

電磁鋼板の特性を活かして、さまざまな新たな応用分野が開拓される可能性があります。例えば、自動車産業におけるEV化の進展や産業ロボットの発展に伴い、電磁鋼板はモーターや駆動部品として更に重要な役割を果たすことが予想されます。また、エネルギー収集や無線給電技術への応用も期待されています。

松本ESテック株式会社と電磁鋼板の繋がり

創業時の松本商店

ここまでは電磁鋼板の一般的な知識をお伝えしました。ここからは松本ESテック株式会社の創業者と電磁鋼板との出会い、そして弊社が扱う電磁鋼板について紹介いたします。

弊社創業者と電磁鋼板との出会い

白井第二工場

松本ESテック株式会社の創業者である松本兼吉は、復員後通信機器メーカーに就職し、研究員として設計に携わるなかで電磁鋼板に興味を持ちます。その後時代の流れから職を離れ、研究員のころから興味があった「電磁鋼板」の販売を知人からの紹介で開始します。松本兼吉は販売だけでは飽き足らず、電磁鋼板精密加工の設備と技術を集結した工場を建設します。後に国内でもトップクラスといわれる「電磁鋼板」加工センターのスタートです。

電磁鋼板加工業界における立ち位置

母材倉庫の様子

創業者よりバトンを受け、松本ESテック(旧松本シリコンスチール)は業界内でさらに優位性を高めます。「同業」といわれている電磁鋼板加工業界のなかで、複数メーカーの電磁鋼板を取り扱っているのは公式には松本ESテックのみ、という強みと、最先端の高速プレス機導入などにより、現在、弊社は系列外の個人事業主としては「無方向性」電磁鋼板単体の裁量が、国内最大手にまで成長しました。

弊社が扱う「無方向性電磁鋼板」とは

電磁鋼板には「方向性」と「無方向性」が存在します。先ほど電磁鋼板の特性で触れた「磁気フィールド制御」によりエネルギーが流れる方向を定める事で、「方向性」はリニアモーターカーなど一定方向に向かって動くものに、「無方向性」は弊社が製造している「モーター・コア」と呼ばれるモーターの心臓部分などに使用し、磁気フィールドの方向を限定することなく一貫した性能を最大限に発揮します。「方向性電磁鋼板」も「無方向性電磁鋼板」も電磁鋼板の特性を異なる形で活かす事に成功した研究の成果の一つです。

弊社の無方向性電磁鋼板加工に関する情報、幕張、白井、鶴岡の各工場の特徴及びモーター・コア製造の詳細は改めてご紹介します。

モーターコア製造業の現場を一部お見せします!

まとめ

複数のコイルの様子

今回は弊社が素材としている「電磁鋼板」について、その特性や使われ方などを簡単にご紹介しました。名前も知らないこの素材が、実は私たちの身近な所で生活を豊かにし、社会に貢献している事がお分かり頂けたでしょうか。

松本ESテックの従業員は「省エネルギー」を実現させる素材「電磁鋼板」を加工し、品質向上する事で、脱炭素化を促進させています。あなたも働きながら一緒に社会貢献してみませんか?

松本ESテックでは2024年3月卒業の高校生、大学生採用を積極的に行っています。電磁鋼板の知識や専門の技術は不要です。ご興味がある方は是非学校の進路指導室、または弊社HPからお問い合わせください。

松本ESテック株式会社

この記事を書いた人 財務・総務部 人事採用担当